『掃除婦のための手引き書』ルシア・ベルリン


もしもわたしが映画を撮るのだとして(たぶん撮らない)、コインランドリーでの一幕があったなら、洗濯が終わるのを待つ登場人物の手には必ずこの本を持たせたい。と思った小説でした。


24の小さな短編。どの話も「助け」を必要としているように見えるけれど、それはわたしが外側にいるからで、内側から見えるのは「ただの出来事」なのでしょう。外側にいる者が感じる憤りや、恐怖、悲しさ、寂しさ、あるいは朗らかさや、優しさといった感情は、「ただの出来事」の強さを前にして、無意味でした。何も思わなくていい、寄り添わなくていい、ただあなたの目の前には今この物語がある、そういう小説でした。


ところで、いくつかの短編に”祖父”が登場します。小説に限らず、物語の中で”おじいちゃん”というのは何かしら「救い」の存在になることが多いように思うのですが、本作の祖父は野卑でした。そして腕のいい歯科医でもありました。野卑で腕のいい歯科医なんてあまり想像したくもないし、全短編の中でも特にエキセントリックな人物だったのですが、なぜかわたしにはこの祖父がいちばん現実的で、目を背けたい存在でした。