膝蓋骨脱臼骨折の記録18 <リハビリの先生は、チワプー>

わたしよりも若く、それでいてわたしよりも落ち着いた(そのために年上か?と思ったくらいでしたが、実際は7つくらい年下でした)リハビリの先生がやって来て、今思えばこのときが、わたし自身がわたしの怪我と向き合うスタートラインでした。


でもまだ、新しい先生が来た、というだけのことでした。


小柄で、フレームの細い眼鏡が似合う、見た目にも知的な理学療法士さんをわたしは今「チワプー」と名づけました。チワプーにはこの日から半年以上にわたり、わたしの膝の面倒を見てもらうこととなります。否、膝だけではありませんね。気持ちの面でもどれほど助けられたことか。
「お世話になりました」とは日常的によく口にする言葉ですけれども、「お世話になりました」しか言いようがない相手、というのはあまりいないものです。本当にお世話になりましたし、お世話をかけるというだけの時間しかチワプーとは過ごしていないのです。本当に本当にお世話になりました。ありがとうございました。


さて、病室まで来てくれたチワプーに連れられて、まずはリハビリテーション室へ向かいます。というところで、はやくもストップがかかりました。「その松葉杖、長さ大丈夫ですか?使いにくくないですか?」と。
使いにくいもなにも、ずっとこのまま、あまり気にしてないです。
と答える間もなく、「ちょっと直しますね」とチワプー。廊下の途中、立ち止まったまま調節し直された松葉杖は、元の長さより長くなりました。その場ですぐ使いやすくなったという実感はなかったのだけれど、のちに長い距離を歩いたときにずいぶん楽になっていると気がつきました。
あとあとの話では「最初に見たとき、どうしようかと思った」くらい、わたしはひどく誤った使い方をしていたようです。
そりゃそうですよ、救急車で運ばれた日に「これで歩けますか?」と聞いてもらった以外、誰にも何も言われないまま、今日まで使ってきたのですから。


「だって、誰も何も教えてくれなかったですよ!」と言ったら、「そうですよね、こっちの問題です。」と申し訳なさそうなチワプー。


リハビリテーション室にて、チワプーはまず傷口を確認します。柔らかい手さばきで傷口に触って、むにむにと皮膚をつまんだりします。「ここがだいぶ硬くなっているので、やわらかくしなければなりません」と、状態を確認しながらチワプーは言います。そうですか、ではどうぞ柔らかくしてください、と思いながらアライグマはチワプーの手さばきを見ています。


そうして施術をしてもらっている間、痛みもありましたが、騒ぐほどの強い痛みはありませんでした。
負傷から手術と、ここに至るまでずいぶん痛い思いをしましたので、ああよかった、リハビリはそんなに痛くないと安心したのですが、それはほんとにわずかな、この日だけの、短く儚い時間でございました。