膝蓋骨脱臼骨折の記録5 <負傷時/処置1>


レントゲン撮影を終えての診断結果は、


左膝蓋骨脱臼骨折 (ひだりしつがいこつだっきゅうこっせつ)


・「しつがいこつ」は膝のお皿のこと。
・「だっきゅう」は骨の関節面が正しい位置からずれていること。


つまりわたしが負った怪我は、左膝のお皿が骨折を伴いずれてしまった。


画:uub


お医者さんが言うには、脱臼は放置しておくと関節が変形した状態で固定されてしまうので、ともかく早く元に戻すことが重要である、と。わたしは「ふむふむ」と聞きながら、重要なことならどうぞやってください、と思っていました。なのにお医者さんは、まるで反意を持っている人を説得するかのように、ゆっくりと、やわらかく説明を続けます。「やってもいいですか」とも「やりますね」とも直接的な言葉を使いません。わたしの反応を慎重に確認しているようなのです。


わたしはうっすらと察しました。それはたぶん「痛い」のだと。あるいは「かなり痛い」のだ、と。でもだからといって、わたしに選択肢はほとんどありません。やっていただくしかない。


説明があり、同意書への署名があり、わたしは脱臼を整復する処置を受けました。それはひとり(助手さん)が足首を持って定位置で支え、もうひとり(整形のお医者さん)がずれたお皿を元の場所に押し返す、というような方法で、言い方がよくないかもしれませんが「力ずく」で治すのです。麻酔もしますが、あまり効き目はありません。処置を受ける前に「麻酔をしないよりは痛くない状態になっています」と言われましたが、声を上げずにはいられませんでした。ベッドの端の掴めるところを必死に掴んで、首に巻いていたタオルに歯を食いしばって、懸命に痛さをこらえました。


ゴキッと音がしたような気もしますが、自分の上げた声でよくわかりません。「大丈夫ですか、気分は悪くなってないですか」とすかさず声をかけていただき「はい、大丈夫です」と答えました。「元に戻りましたからね」といわれたときには「よかったぁ」と心からの安堵の声を漏らしました。元に戻らなくて、また同じような痛さを耐えなければならないようなことだけにはなりませんようにと願っていました。


つづく。