三回目

一回目

小さい頃は、おでこを出していました。たぶん母親のタツコさんが好きだったのでしょう。前髪を長く伸ばして、真ん中でわけて耳にかけたり、ぜんぶまとめて後ろで束ねたり。していました。

でも小学3年生のときに、きっかけは忘れてしまったのですが、前髪を切ったのです。眉の長さで切っておでこが隠れました。次の日学校で、いろんなことを言われたり言われなかったりした中で、だたひとりだけ、森君という同級生に、「uubはそっちの髪型のがぜったい似合う」と言われたことを、わたしは強烈に記憶していて。

好きな男の子が森君だった、わけではないのです。だから森君に言われたのがすごく嬉しくて覚えているというのではないのです。森君がそう言ったならそれは本当のことだと思ったから覚えているのです。森君はそういう男の子でした。

以来、わたしの前髪は今現在にいたるまで、ずっと眉のあたりを行ったり来たりです。30歳を過ぎてから今一度おでこを出す前髪にチャレンジしましたが、森君の言葉はおまじないのように効いていて、結局元に戻りました。今も短いです。



二回目

制服を脱いで、私服で学校に通うようになってから、わたしはジーンズしか穿きませんでした。夏はTシャツにジーンズ。冬はセーターにジーンズ。おしまい。でも大学2年生のときに、同級生のまりちゃんから「uubちゃんは絶対にスカートのほうが似合うと思う」って猛アピールをされて。わたしはジーンズしか穿かないのですから、まりちゃんはわたしのスカート姿を見たことがないはずなのに、そんなことを言うんです。そんなに言うんなら、、、とスカートを穿いて学校に行ったら、まりちゃんが「ほら、やっぱり。絶対そっちのが似合う」って得意満面に言うので、というよりむしろ、もはやジーンズを穿くなんてあり得ない、というような調子だったので、まりちゃんに従うことにしたのです。

まりちゃんにそう言われてスカートを穿くようになってから、「uubちゃんは絶対にジーンズのほうが似合うと思う」と言われる日もやってこないので、以来ずっと、365日のうち360日はスカートを穿いています。



三回目

職場のロッカールームで、よく顔を合わせる奥様がいます。ピアチェーレではない、別のお店のスタッフです。その奥様がわたしの私服を褒めてくださいます。見るたびに、会うたびに、めちゃくちゃ褒めます。なにをそんなに褒めてくださるかというと「スカートの丈」です。わたしはだいたい膝下丈のスカートを穿いているのですが、「めっちゃかわいい」「めっちゃ似合う」「なんでそんなに似合うの、うらやましいー」と、とにかく褒めちぎります。反対にふくらはぎが隠れるくらいのロング丈だと「なんだ、今日はロングかぁ」と、残念がられます。奥様ご自身は、自分に膝下丈のスカートは似合わないと思っているそうで、だから「この丈が似合うのがすごく羨ましい」と。でも毎回毎回、会うたびに褒めてくださるので、「言わないわけにいかなくなっているんじゃないか」「だとしたら申し訳ないな」と思い始めていました。ところが今日。

ロッカールームに入ったら、ちょうどその奥様が着替えを済ませて出ようとしているところでした。おつかれさまです、とお互いに挨拶を交わして、そのままお帰りになるかと思いきや、「今日は、いつもの丈のスカート?」と訊くので、「あ、そうです。あの丈です。」とお答えしたら、「着替えて着替えて、ここで会ったら、見ずには帰れない!!」って言うんです。

ええー!?

さすがに驚きます。でもそこまで言われたらつべこべ言わずに急いで着替えるしかありません。いつもの5倍くらいの速さで急いで着替えます。スカート穿いて、ズボン脱いで、ベストも脱いで。そうしてパって奥様のほうに体を向けたら「やっぱりかわいー」ってすっごく喜んでくれるんです。「わたし、それ見ると癒されるの」って。


癒される!?


なんだかもうよくわからない評価になってきました。でもともかく、すごく喜んでくれるから、職場にはできるだけ膝下丈のスカートを穿いていくようにしています。