†住友生命全国縦断チャリティコンサート/ 横山幸雄


27年目だそうです。「住友生命全国縦断チャリティコンサート」


愛知県芸術劇場 コンサートホール


今年はピアニスト・横山幸雄さんのリサイタルです。


プログラム前半はベートーヴェンピアノソナタテンペスト」と「熱情」。休憩を挟んだ後半はショパンのバラード4番含む4曲と、リストを2曲。どれもピアノ曲の王道ですね。


クラシックコンサートに行くのは何年ぶりでしょうか。本当にひさしぶりのことでしたが、いろいろな発見があって、とても楽しく、個人的に意義深い時間でもありました。


まず、とてもやわらかなベートーヴェン。バリッとした感じよりも、流線を思わせる演奏。筆で水の上に線を描くような。わたしの知ってるベートーヴェンは、どちらかというと、水で岩の上に絵を描くようなイメージなのです。でもここではフォルティッシモの連続する和音の響きにも、波紋が波紋を呼ぶような広がりがあって、それはわたしの知ってるベートーヴェンとはちょっと違っていました。なるほど、こういうベートーヴェンもあるのかという発見。そしてプログラム後半のショパンにいたって驚いたのが、ショパンのほうがむしろバリッとしている。まさかそんなことがあるとはわたしは思ってもみない。そんなことは想像したこともない。ベートーヴェンよりもショパンがバリッとした音を鳴らすなんて、あるわけないと思っている。だからベートーヴェンの曲が流線を描いている間、これはなんともショパンらしい演奏だと思って聴いていたのです。この演奏者もまた、ショパンを愛するピアニストであると。ところがショパンを弾く段になると、なんとショパンがバリッとしている。後半になって、ピアノが「鳴り始めた」というようなこともあるのかもしれないけれど、でもそれだけではないでしょう。ショパンをバリッと弾くピアニストなのです、きっと。「英雄ポロネーズ」は今まで聴いた中でいちばんかっこよかったし、バラード第4番は、この演奏ですばらしくいい曲だと知りました。ショパンの傑作じゃなかろうか。


ショパンを聴くと、やはりショパンはすばらしいと思う。ピアノの可能性を知り尽くしていた人だと思う。ピアノの良さが本当にわかっていた人だと思う。リストを褒める人もいるけれど、その点でわたしはリストがショパンに敵うとは思わない。リストはどちらかというと、ピアノに新しい可能性を見出そうとしていた人であるように思う。ピアノに背伸びをさせようとしていた人であると思う。わたしがピアノだったら、リストと共に歩む人生よりも、ショパンと共に歩む人生のほうが喜びが多かっただろうと思う。まあそれでも、ピアノであるわたしがリストを選んだ可能性もあるとは思うけれど。


ピアノ曲を聴いて、ショパンに憧れないわけはないと思う。実際、わたしはショパンの曲でピアノを真剣に弾くようになりました。でもピアノを真剣に弾くようになったら、愛したのはベートーヴェンだった。


もしもわたしがピアニストでなかったら。ここでの「ピアニスト」は職業としての「ピアニスト」ではなくて、ただ「ピアノを弾く人」という意味で使います。抵抗はあるものの、他にいい言葉が思いつかない。もしもわたしがピアニストでなかったら。


ピアニストでなければ、ベートーヴェンを愛することはなかったかもしれません。生涯ずっと「ショパンのほうが好き」と言っていたのかもしれないとさえ思います。それくらいベートーヴェンは「聴く」のと「弾く」のとで全然違うのです。すくなくともわたしには。「聴く」のと「弾く」のとで、体感できる音に大きな差があります。もちろんただの相性なのでしょう。でもだからこそ、ピアニストでなかったならば、ベートーヴェンを愛せなかったかもしれないことを思うと、わたしはピアニストであって本当によかったと心から思います。


チャリティ募金は、東日本大震災で被災した学校へピアノを寄贈するプロジェクトに役立てられるそうです。ピアノを弾いてベートーヴェンを好きになってくれる人がいるといいなぁ。でもそんなわたしの思いとは裏腹にショパンを好きになったりするんだ、きっと。


次は4月にミュンヘンフィルハーモニーのコンサートに行ってきます。