懺悔


懺悔します。


日の暮れた頃、帰ってきた暗い部屋に電気をつけたわたしは、白いふすまに一匹の虫がとまっていることに気がつきました。ハエや蚊ではなく、もうすこし手ごわい虫、蛾だったように思います。体長は2センチから3センチくらい。さほど大きくはないようだけれど、体におさめた羽がぶあつく、その厚みにぞっとしました。蛾はじっとしています。


すばやくはたけば簡単にしとめられそうですが、その方法では白いふすまが汚れてしまいます。殺虫剤をと思いましたが、いつもアート君任せのわたしは、殺虫剤のある場所がわからず、なにより、薬剤を吹きつけたときの蛾の狂ったような飛行反応を思うと恐ろしく、とても薬を探す気にはなりませんでした。かといってこのままなにもせずにいて、この蛾が急に羽を広げてはばたき、こちらの予測しない軌道で部屋を飛び回り始めたらと思うとさらに恐ろしく、どうにかせずにはいられませんでした。


わたしは掃除機を取り出しました。蛾のとまっているふすまから二番目に近いコンセントにコードをさし、掃除機の先の吸い口部分をはずし、ホースだけの状態にしました。そしてホースの入り口、そう、闇へと続くトンネルの暗く丸い穴を、ただじっととまっているだけの蛾の背後へそっと近づけました。スイッチオン。ひゅ。


蛾は声をあげる暇もなかったでしょう。羽を広げる時間もなかったでしょう。ただ一瞬にしてわたしの視界から消え、そこにはもとの白いふすまとごぉという掃除機の音だけが残りました。


この場を借りて心よりお悔やみ申し上げます。


アーメン。