ペンネ君のサロン


サロンというのは、制服のエプロンのことなのだけど。


ペンネ君は汚れたサロンをしていて、マルタリア−ティさんに替えろって注意をされたのでしょう。営業中にふたりでわたしのとこに来て、「きれいなサロンってないの?」と、マルタリアーティさんが聞くので、「あると思いますよ」とわたしは答えました。そしたら、ペンネ君が「なかったんです」って言うんです。「いつものとこには見当たらなくって」と。


サロンの枚数はスタッフの人数に比してかなり余裕があるので、それが全部クリーニングに出払っているということはないはずなのです。


マルタリアーティさんもそれがわかっているので怪訝な顔。その表情に賛成するようにして「いえ、あると思います。あとで見ておきます」とわたしは言いました。営業中には取ることのできない場所に置いてあるのです。


お昼の営業が終わって、ディナーの準備ができて、さて賄いができるまで何しよう、と思い出したのです。そうだ、ペンネ君のサロンを出さないと。


サロンは店のいちばん奥にある棚にしまってあります。ペンネ君は休憩時間になると、その棚の前にあるソファーに座っています。そこがペンネ君の定位置です。サロンを出そうと思ったら、ペンネ君はそのソファーに座ってスマートフォンをいじっていました。背もたれに深くもたれて、足も組んで、リラックスモード。そのペンネ君を横目に、わたしは棚の扉を開けて、クリーニングから戻ってきたサロンを入れている紙袋を出します。紙袋の上にはナフキンが何枚か重なっていましたが、その下にちゃんとあるじゃないですか、サロンが、いち、にい、さん、よん枚も。


「ちゃんとありますよ」と言うと、「あ、それしか見えていませんでした」って言うんです。「それって?」と聞くと、「その上にあったナフキン」。



。。。。。



バカなんじゃないの?と、わたしは思いました。小学生じゃあるまいし、ちょっと探せば見つかるものを、探しもしないで「ない」なんて。


でもバカって言うのはよくないと思ったので、「ちゃんと探してください」と言いました。そしたらペンネ君は、ソファーに座って、足を組んで、背もたれにもたれかかって、スマートフォンでゲームをしているその状態のまま、わたしには目も向けずに声だけ「すみませーん」ってちっちゃく発しました。





以来わたしは、クリーニングから戻ってきたペンネ君のサロンは、紙袋には入れずに、ペンネ君の他の制服と一緒にして置いています。ペンネ君のためにサロンを探すなんてことは、もう二度と絶対にしない、という意思表示です。



なんにも気がついていないペンネ君は、毎日きれいなサロンが手元に届いているのが便利なようで、嬉しそうでした。ふん。