名札をなくしたアナトラ君

プレゼントのお返しに何が欲しいって聞かれたから「ハンカチ」って答えたのに、「お菓子にして」と言われて、「じゃあお菓子でいいよ」って答えたのに、結局、ハンカチもくれないし、お菓子もくれないアナトラ君。


は、またしても名札をなくす。いったい何度めなのか。


名札をなくすと店内に入れてもらえないんです。そういう仕組みなんです。でも名札のない人もいるので、そういう人は、従業員入口で名前を書いて入って、出るときも書いて出るんです。そういう仕組みなんです。ただそれも長く続くと注意を受けるんです。「はやく名札を作ってください」って。そして注意を受けるのは、名札を持っていない本人ではなくて、名札を作る手続きをしているわたしなんです。注意を受けたから、そこで始めて、アナトラ君がまた名札を失くしたことを知ったんです。


「アナトラ君。」
「あ?」


朝なので機嫌が悪いです。


「また名札なくしたでしょ。」
「うん、なくした。なんで知ってるん?」
「はやく作ってもらってください。もう話は通してあります」
「いいやん、べつに。」
「だめです。どこどこの窓口に、何時から何時までの間に行って、名前と店舗名を書いて、いくら円を支払ってきてください。」


名札を失くすとお金がかかります。
アナトラ君は渋々言いました。


「わかった。いつまでに行けばいい?」
「今日か明日中には。」
「ん。」


と、きちんとご本人の了解を取りつけたわたし。


そのやりとりから一週間くらい経ちました。


「アナトラ君。」
「なに?」


忙しいので不機嫌です。


「そういえば名札作りに行きましたか?」
「いいや、まだ行ってない。」
「まだ行ってないの!?」


と思わず声が大きくなりました。


「まだって、、おれめっちゃ忙しいんやで。賄い食べてる暇もないんやで。行ってられへん。」


と、ご気分を害したご様子です。



まったく。しかたがないので行ってきましたよ。わたしが代わりに。窓口まで。お金もって。



「アナトラ君」
「なに?」


何度も呼ばれるので不機嫌です。


「お金ちょうだい。」
「あー、ちゃんと自分で行ってくるからいいよ。」


と言うアナトラ君の目の前に名札を突き出したわたし。


「なにこれ。行ってきてくれたん?」
「行ってきました。」
「ありがと。」
「どういたしまして。お金。」
「ああ、払う払う。。。。ってごめん、おれ今日財布ない。」
「は?なんで財布がないのよ。」
「忘れてきてん。」
「なんで財布を忘れるのよ。」
「駅で気がついて、だからおれ今日走ってきたんやで!?」


。。。。



まったく。ほんとにダメなアナトラ君。いやもとい。ほんとにダメなところのあるアナトラ君。こんなにダメなところのある人が、あんなにおいしいお料理作るのだから、人間って不思議。