まだ名前なき後輩


今日から新しいスタッフがひとり入りました。


はじめましての挨拶から始まって、仕事して、同じ時間に勤務を終えて、一緒に着替えて、ロッカールームを出ました。廊下をならんで歩きながら、どこに住んでるの?って尋ねたら、よく知ってる駅の名前が返ってきました。中学時代の友達が住んでいた場所です。


ということは、もしや。


と、思って聞いてみたらやっぱり、わたしと同じ中学校だった。
ここで中学の後輩に会うなんて。


中学時代にいい思い出はあまりないのだけれど、すごく楽しかったんです。同級生からはけっこう嫌われたし、勉強もできなかったし、部活もひどいめにあったし、好きな男の子にも好きになってもらえなかったけれど、なのに、なぜかわたしの記憶は「楽しかった」んです。へんなの。


あの学校の、教室や、校庭から見える景色や、何度も往復した渡り廊下や、美術室につながる石畳や、プールから水が飛んでくる塀の向こう側の道路や、夜中に乗り越えた錆びた茶色い鉄柵の裏門、そういう風景の中でこの子もわたしと同じ時代を過ごしたんだと思ったら、ずっと一緒にいたみたいな気分がふわっとして、ちょっと温かくなりました。


ある景色を守るというのは、誰かの思い出を壊さないようにするためや、離れてしまった誰かをその場所に迎え入れるためや、あるいは誰かがその景色を懐かしむためにというだけではなくて、その景色を別の誰かが受け継いで、その景色の時をつないでいく、ということなのだと、今日始めて知りました。


今日知り合ったばかりの後輩の名前は、次登場するときまでに考えます。