<のだめカンタービレ 最終楽章 前編>監督:武内英樹 原作:二ノ宮知子


見てみたいなーと思いながら、一度も見たことのなかった「のだめカンタービレ」。これまでは原作をチラっと、ドラマもチラっと、のぞき見したことがあるという程度でした。やっとこさ2時間真剣に観ました。


しかしまあ、オープニングがベートーヴェンとは。知らなかった。(誰かがそう言っていたのを聞いたことがあるような気もするような、ないような。。)交響曲第7番第1楽章、かな(ちょっと自信ない)。ベートーヴェンが聴こえてきたらもう、わたしはそれだけで感動してしまいます。本編が始まる前に歓喜です。ご存知の方もいるかと思いますが、わたしはベートーヴェンが大好きなのです。あー、ベートーヴェンっ。なんて素敵なオープニングっ!


とても評判のいい、ハマリ役だと噂の上野樹里ちゃんの「のだめ」もしっかり楽しんで観ることができました。でも個人的には、演出や撮り方によって、もっとハマれるのではないか、と思いました。もう一分の隙もないくらい「完璧なのだめ」に見える瞬間があるからでしょうか、そうでないように見えてしまったところが荒削りに感じられました。上野樹里ちゃんの演技が、というよりも、その演技にオーケーを出す側が合格ラインを高くはしなかった、という印象です。すみません、わたし偉そうですね。でもなんか、もっといける感じがしたんですよね。のだめ。気のせいかな。
余談ですが、のだめちゃんが進級試験で弾いていたモーツァルトの「トルコ行進曲」。決してわたしの好きな「トルコ行進曲」ではなかったのですが、いかにものだめちゃんなら弾きそうな「トルコ行進曲」になっていて、へーと思いました。あれは実際には誰のピアノなんだろ。


あとこの作品、出演者がいいですね。「いい」というのは「わたしの好きな俳優さんが揃っている」という意味ではなくて、出演者がみんなすごく楽しそうに演技をしているように見えたという意味です。「ああ、いいな」と思いました。みんなが「のだめ」の楽しさに引っ張られているような。みんなが音楽の楽しさに乗せられているような。いや、それもこれもすべては、わたしがオープニングでベートーヴェン交響曲第7番を聴いてしまったせいかもしれませんが。


どこまでも楽しい「のだめカンタービレ最終楽章前編」のラストは、ちょっと悲しい終わり方をします。いつか千秋の指揮と自分のピアノで一緒の舞台に立つことを目標にしているのだめちゃんは、千秋に追いつこうと一生懸命にレッスンに励んでいます。ところが学校の課題に出されていたバッハを、千秋は弾き振りで演奏してしまうんですね。つまり、オケの指揮をしながらピアノは自分で弾くんです。ちなみに曲は、バッハのピアノ協奏曲第1番でした。その様子を客席から観ていたのだめちゃんは、がっくりとうなだれてしまいます。「ずるい」と。


のだめちゃんの気持ちとわたしの思ったことが一緒かどうかわからないけれど、わたしがもしのだめちゃんの立場だったら、本当に悲しいです。すごく苦しい場面です。耳を塞ぐことはできないけれど、全身で震えてしまうと思います。曲はピアノコンチェルトです。千秋がいる場所には自分がいたかったのです。千秋のためにピアノを弾くのは自分でありたかった。自分のピアノを千秋が必要としてくれることを望んでいたし、そういうピアノが弾きたいと誰よりも願って、がんばっていた。それを当の本人に弾かれてしまったんです。指揮を振った上で、千秋は自分で弾いたんです。それを見せられたんです。目の前で。


千秋ひとりでできるんだったら、わたしはいらないじゃない。と、わたしは思いました。自分の居場所を失った気持ちです。あのひとりぼっちの感覚は、本当にとても寂しいです。ああ、だめだ。書いてるだけで泣けてきてしまいます。いや、あれは本当に寂しかったんです。いたたまれなかった。


でもね、後編の予告にあった千秋のモノローグが、たまらなくよかった。それはまた、後編を観たときの感想に。